ビジネス利用でのHMD選び

diprossでは産業向けVRの制作を行っているため、お客様の会社へ出向き、一度に数十名の方にVR体験をしていただく機会がよくあります。

diprossでは6種類のHMD(VRゴーグル)を併用していますが、今回HTC様よりビジネス用HMD【VIVE FOCUS3】をお借りする機会がありましたので、ビジネス使用でのHMD(VRゴーグル)の使い勝手について他のHDMと比較しながら紹介させていただきます

購入しやすく人気の【Quest2】、拡張性の高い【Vive Pro Eye】、業務用に特化【Vive Focus3】の3機種を比較して評価したいと思います。

仕事でVRを使用するケース

仕事でお客様にHMDを装着していただくケースは複数あります

 1」VRデザインレビュー:製品開発上でのデザインや設計データの原寸確認及び評価

 2」営業販促ツール:自社製品を顧客にプレゼンするためのVR製品サンプル

 3」VR自体の評価会:業務フロー改善を目的にしたVRの導入検討・評価会

自動車のデザインモデルを原寸で評価

上記は個人使用でのVRと違い、どれも複数人でVRを体験する形になります、特に2番・3番は不特定多数の方にHMDを装着していただく事が多いです。

日によっては1時間の間に15名程度(2セットで30名)の方に体験していただく場合もあります。

その際、気をつけておく必要があるのは

 ●装着者はVR初心者(サポート必要)

 ●商談込みのためスムーズなセッティング&装着が必要

 ●製品データ容量が大きいためスタンドアローン型(Quest2等)では無くPC-VRの頻度が高い

という特徴があります。

事例1【ピントが合わない】&【メガネが入らない】

HMDのレンズと眼球の位置関係は結構シビアです。数mmズレるとピントが合わず文字が読めない、対象物がぼやけて見える等のトラブルが発生します。個人使用のHMDなら一度設定したら変更するケースは少ないですが、プレゼンで不特定多数がHMDを使い回すケースでは頭の大きさや目の間隔が全員同じというわけにはいきません。また、生まれて初めてVRを体験する人にとっては、ピントがぼやけているのがトラブルなのか仕様なのかは判断できません。

結果、VRの中で評価してもらいたい対象物が「よく見えないからまあいいや」「こんな程度なら要らない」といった残念な結果が生まれる危険もあります。

アテンドする側もその人の頭の大きさに合わせてベルトの調整をしたり「くっきり見えてますか?」などの声かけを行いながら装着を行いますが、初めてHMDを装着する人にとっては正しい見え方がわからないので実は苦労するポイントです。

Quest2 と Focus3 の開口比較

【Quest2】左右のレンズ位置を調整する際は一度ゴーグルを頭から外して、内側のレンズを手でつかみ左右に移動させてからまた被ってもらうというアナログな調整になります。

ピントがズレている原因が上下なのか左右を開くのか閉じるのかわからないので正直あきらめたいセッティングです。

  眼鏡:小さめの眼鏡であれば入りますが、そのままではHMDのレンズと眼鏡のレンズが当ります。専用のスペーサーで眼鏡の入る奥行きを増やす事ができますが、デモの最中にスペーサーを追加するのは手間です。

【VIVE PRO Eye】左右の眼球の位置を測定して自動で左右のレンズ位置が調整される機能がついています。HMDを装着する人にとっては上下の位置確認だけで済みます。装着時の説明も楽です。

  眼鏡:縦幅が細めの眼鏡であれば付けたままでHMDの装着が可能です。細い眼鏡は壊れそうなので慎重に装着してもらいます。

【VIVE Focus3】ゴーグル下部のダイヤルを触ると目の前に十字のインジケーターが表示され、ピントのずれ原因が上下なのか左右なのかを確認しながら調整するので初めての方でもわかりやすいです。他のVIVEシリーズにも同様のインジケーターが採用されていますがFocus3ではダイヤルの位置が目の間(中心下部)になった事でより直感的に操作できます(他機種のダイヤル位置は右側面)

  眼鏡:開口が大きいのでほとんどの眼鏡が入ります

事例2【体験中にずれる】

HMDはフロント重心の物が多く、VR体験中にずれていく事が多々あります。頭の形状や顔の作りによってもズレやすさが違いますが、数mmのズレが体験に大きく影響します。

対策としてできるだけ強く固定する、ベルトの位置を調整するなどありますが、強い固定は目の周りに強い圧迫感を与えるのであまり快適な経験とは言えません。

また衛生面を考慮して目の周りに不織布のマスクを着けてからHMDを装着してもらいますが、これもズレやすくなる原因となります。本当はマスクなしで使用してもらいたいですが、皮脂汚れがつく事で臭いの原因となります。

【Quest2】純正のゴムベルトだと装着したままベルトの締め付けを変更しないといけないため、締め付け作業はかなり厳しいです。純正またはサードパーティ製のダイヤル式樹脂ベルトへの交換は必須です。

フェイスクッション:スポンジまたは純正シリコンカバー スポンジは皮脂を吸収して臭いの原因になります。シリコンカバーおよびアルコールティッシュでの拭き掃除必須です。

■【VIVEPRO Eye】樹脂ベルトをダイヤル固定するので、比較的装着はスムーズです。

 ケーブルが頭から垂れているので、取り回しを周りの人が気を付けないとケーブルが引っ掛かりゴーグルがズレますが、バッテリーを積んでいない分軽量です。

フェイスクッション:スポンジ スポンジは皮脂を吸収して臭いの原因になります。サードパーティ製のシリコンカバーまたは合皮のクッションへの交換およびアルコールティッシュでの拭き掃除が必須です 。

【VIVE Focus3】樹脂ベルトの固定ですが、クイックリリースボタンが付いているので装着時や外す時の動作がスムーズです。VR体験者の方は体験が終了したら少しでも早くゴーグルから解放されたがる傾向があるのでスピーディーな脱着は重要です。

後頭部のダイヤル部に交換可能なバッテリーを積んでおり前後の重量バランスがとれているため、フロント重心によるズレも発生しにくいです

フェイスクッション:合皮 フェイスクッションとリアの固定パッドがマグネットで固定されており交換が容易にできるのでスペアパッドと入れ替えてのアルコール洗浄が簡単にでき、ズレる原因となる不織布を使用しなくても素早い交換ができる事も大きなポイントです。

開口が広いので固定ベルトを強く締めても圧迫感が少なく非常に快適です。

フェイスパッド、リアクッションはマグネットによる取り外しで簡単。バッテリーは取り外して交換可能。

事例3【セッティングに時間がかかる】

Quest2などのスタンドアロンタイプのコンテンツであればQuest2の電源を入れてガーディアン(プレイエリア)の設定をするだけですぐに体験が可能ですが、大型の製品や産業機器のデザインレビュー等、フォトリアルなプレゼンに使用する業務用VRではスタンドアロンタイプのHMDでは表現力が足りません。nvidia RTXシリーズ等パワーのあるグラフィックボードを積んだPCとHMDを接続してリアルなVRを体験していただきます。

PC-VRを行うときは、HMDと接続するPCもプレゼン会場に持ち込みますが、PCとHMDとの接続工程はできるだけスマートであることが望ましいです。

お客様の会社の大会議室でのプレゼンが多くなりますが、PC機材搬入、机の配置変更、コンセントの確保、体験者の導線の確保等、準備だけでおよそ20分から30分程度の時間かかってしまいます。

PCとHMDが2~3セットあるとそれだけ時間が伸びます。

ギミックアニメーション/LED発光等の複雑な演出をVRで原寸確認

■【Quest2】本体電源ON:26秒 PCLinkアプリ起動まで:20秒 ガーディアン設定:30秒程度 

       PCとの接続はType-Cケーブル1本 または 同一Wi-Fi内での無線接続

【VIVE Pro Eye】 PCとの接続約10分(センサー設置+ケーブル接続) ガーディアン設定 3分

       無線接続はなし、別途無線キットが必要(日本国内ではサードパーティ製のみ)

【VIVE Focus3】本体電源ON:34秒 PCLinkアプリ起動まで:25秒 ガーディアン設定:30秒程度 

        PCとの接続はType-Cケーブル1本 または 同一Wi-Fi内での無線接続

 ※上記はすべて手動での実測値です。製品仕様とは誤差がある場合があります

 ※PCの起動時間およびSteamVR/VivePort/Oculu等アプリ起動時間は含んでいません

 Quest2=個人用 Pro Eye=製品開発用 Focus3=プレゼン用

販売価格はQuest2が圧倒的に安く入手しやすいですが、「純正バッテリー付き樹脂ストラップ13,200円」と「業務用ライセンス付き本体92,400円」を足すと105,600円となりFocus3(130,900円)との価格差はかなり埋まります。

Quest2の個人用:Facebookアカウントを業務で使用する場合、クレジットカードの登録・開発者モードの設定等、初期設定が大変です。さらにMeta側からのアップデートによりライセンスの更新や仕様が変更になり端末ごとに設定し直す必要も出てくるため自分の手元で管理できる状態以外はビジネスライセンスの利用をオススメします。

VIVE Pro Eyeは外部センサーを必要とするのでセッティングは手間ですが、コントローラーと別に位置センサーを併用したりVR内での視線を追従したりと拡張性が高いため、製品開発使用には向いていますが不特定多数で気軽に行うプレゼン向きではありません。専用のVRルームを用意してVRを使用できる場合にはオススメです。Pro Eye2の発売と無線アダプタ(技適合格版)が待ち遠しいです。

VIVE Focus3はビジネス用を謳っているだけあり、プレゼンや業務利用を前提に使い勝手を考えられており非常に快適です。VR体験者側としては圧迫感が少なくズレにくい装着感、プレゼン側としては衛生面のメンテナンスと装着のしやすさにおいてよくできていると感じました。 鼻の位置に拡張用と思われるType-C端子があったので今後のアクセサリに期待したいです。表面の黒つや部分に指紋がつきやすいのは気になりました。

ピント調整しやすい瞳孔間調整ダイヤルと機能拡張用Type-C端子  表面の黒ツヤ部の指紋が目立つ

比較一覧

 Quest2VIVE Pro EyeFocus3              
価 格私用版36,000円 業務用92,400円179,168円130,900円
解像度 視野角4K 110度3K(2880✕1600) 120度5K(Wi-Fi-PC接続時 4K 120度
間口133✕57mm 小さい眼鏡なら可能
(眼鏡用スペーサーあり)
140 ✕52mm 細い眼鏡なら可能
(眼鏡用フェイスクッションあり)
140✕59mm
(眼鏡入りやすい)
フェイスクッション樹脂圧着固定 スポンジカバー
(純正シリコンカバーあり)
面ファスナー固定
スポンジカバー
マグネット固定 合皮
(脱着が容易)
固定ベルトゴムベルト
(純正樹脂ストラップオプションあり)
樹脂:ダイアル調整樹脂:クイックリリース付きダイアル
つけ心地ゴムベルトの調整は困難締め付けは細かく調整が可能圧迫感は少ない
外す時がワンボタンで楽
PC無線接続Wi-fiなし (外部機器必要)Wi-fi6
PC有線接続本数Type-C 1本HDMI、USB (+電源アダプタ)Type-C 1本
接続アプリ(PC側)Oculus/SteamVRVivePort/SteamVRViveBusiness/SteamVR
電源ON 起動時間26秒34秒
PC-Link アプリ起動20秒25秒
セッティング時間約10分(センサー設置+ケーブル接続)
ガーディアン設定方法インカメラ 30秒PC画面確認 3分インカメラ 30秒
瞳孔間調節レンズを掴んで移動 インジケーターなし自動下部ダイヤル式 
インジケーターあり
バッテリー着脱不可 Type-C給電バッテリーなし 常時給電(専用アダプタ)着脱式 専用アダプタ
その他初期設定時にFacebookアカウント必要、スマホアプリ(スマホ)必要 アップデート頻度が高くライセンスにも影響センサー用スタンド2本必要   リンクボックスが体験中に衝撃で壊れる事あり表面に指紋つきやすい
解像度以外の値はすべて手計測です。メーカーの仕様とは一部異なる場合があります。

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